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こころのメッセージ


自殺未遂者支援の意義

福岡大学 医学部 精神医学教室 医師 衞藤 暢明

H29年10月掲載

1.自殺未遂者の位置付け

 一度自殺を図った人(自殺未遂者)が再度自殺を図って亡くなることがある。自殺未遂者の再企図防止は、これまでも自殺予防の中でも大きな柱として位置付けられてきた。それは自殺既遂者の中で、過去に自殺未遂歴がある人が30~40%含まれているという調査結果に基づいていた。
また、過去に自殺を図った人が将来自殺で亡くなる頻度に関する調査として、1年以内に1~3%であり、5年以内に9%であるとの報告があることも根拠となっていた。

 現在、自殺未遂者に対して5年以上の追跡を行うと、おおよそ10人に1人が自殺で亡くなることが分かっている。
いわゆる「自殺(死亡)率」が、一般人口10万人の中で1年間に自殺の数を表すもので、平成28年 全国 17.3 (平成28年 警察庁)となるのに対して、自殺未遂者だけが10万人集めた場合を想定すると、その後に1年間で少なくとも1000人、10年間で1万人が自殺で亡くなることになり、その差は歴然としたものになる。このように自殺未遂者の調査や統計からも自殺未遂者に対する対策が、自殺予防全体の中で非常に重要な位置を占めることが理解できる。

2.救急医療機関を中心とした自殺未遂者支援の意義

 自殺企図によって生じた身体的な問題に対して、最初に治療を行う救急医療機関には自殺未遂者が集まるため、救急医療の段階から始まる自殺未遂者への支援が注目されるようになった。
身体的な重症度の高い救急患者が搬送される3次救急医療機関における過去の調査で、自殺未遂者のほとんどに何らかの精神疾患が認められることが分かった。
また、自殺未遂者が様々な社会的問題を抱えていることから、精神科的な治療とともに社会的な支援を行う必要性が指摘されるようになった。

 平成18年以降、厚生労働省「自殺対策のための戦略研究」の一環として自殺未遂者の再企図を減らすための取り組みに向けた大規模な研究が行われた(通称ACTION-J)。
3次救急医療機関である救命救急センターに搬送された自殺未遂者に対し、通常の精神科的な評価と診療に加えて社会資源の紹介や継続的な支援を行うケース・マネージメントを加えた場合に、6ヶ月間で自殺企図の再発が50%まで減らせたとの結果が発表された。
これを受けて平成28年度から、救急医療機関に入院となった自殺未遂者に対して、継続的な支援を行うことが保険で認められるようになった。(救急患者精神科継続支援料)

 今後、ますます救急医療機関を中心とした精神科との連携と継続的な支援が行われるようになることが期待される。その結果、自殺未遂者の再企図は減らすことになって、自殺者のさらなる減少に結びつくだろう。

3.今後の課題

 自殺未遂者への支援が自殺者を減らすことにつながることは明らかになってきたが、自殺未遂者には年代や精神科的な診断、社会的な背景はさまざまな人が含まれている。
それぞれに対してどのような治療や支援が望ましいかについては、今後明らかになっていくものと思われる。
さらに自殺未遂者に対応する支援者を増やしていく必要があり、これまでに自殺未遂者に関わったことのない人たちへの自殺予防教育も重要になる。

4.おわりに

自殺予防に対する取り組みは一つだけで完結することはなく、それぞれが相互に影響して効果を上げていくものである。
自殺未遂者に対する支援から学ぶことは多く、これが自殺者を減らすための手立てを増やしていくことにつながることになるだろう。

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