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こころのメッセージ


『うつ病』と睡眠

有吉祐睡眠クリニック 院長 有吉 祐

H17年1月掲載

前々回に、吉村先生から「うつ病は、気分(感情)障害の一つである」という説明がありました。たしかに気分障害には、大うつ病、躁病、双極性障害、気分変調症、気分循環症などがあるのですが、皆さんにとってゆううつになる病気は全て「うつ病」という感覚でしょうから、ここでは気分障害全般のお話しをしていきます。

 「気分障害には睡眠障害が必発である」と言われます。不眠、もしくは過度の眠気が気分障害の特徴的な症状であるからです。また逆に、眠れない日が続くと、気分障害の原因になったり、症状を増悪させたりもします。

 単極性障害、すなわちうつ病相だけを示す気分障害では、入眠困難、中途覚醒増加と再入眠困難、早朝覚醒、睡眠時間の短縮、浅眠、熟眠感の欠如などが現れます。わかりやすく言いますと「寝つきが悪く、夜中に何度も目が覚め、しかもまたもや寝つかれず、白々と夜が明ける前から目が覚めており、まったく寝た気がしない」という状態です。

 双極性障害、すなわちうつ病相と躁病相の両方を示す気分障害では、躁病相ではいちじるしい入眠困難と総睡眠時間の極端な短縮を認めますが、本人には睡眠の不足感がないのを特徴とします。そして、うつ病相では、不眠になるだけでなく過眠傾向を示すことがあります。すなわち「朝が起きられず、昼も起きて来れずに、何もしたくなくて一日中眠り続けていたい」のです。この過眠傾向は、後述する季節性感情障害の特徴でもあります。

 気分変調症(神経症性うつ病)では、上記の不眠タイプと過眠タイプの両方が認められるように思います。

 さて、古くから「うつ病」に特徴的な所見として有名なのが、早朝覚醒(早く目が覚め寝つけない)です。また、夢ばかりみるようになったと言う人も多いようです。ではどうしてこのようなことが起こるのでしょう。じつは、当院や久留米大学で行っている睡眠ポリグラフ検査では次のようなことがわかっています。

「うつ病」の人は....

(1) レム潜時(入眠後最初のレム睡眠までの時間)が短縮している!
(2) 睡眠第1周期のレム密度が増加している!
(3) 徐波睡眠が低下している!

 ちょっと難しいのでここで補足説明しますと、「レム」というのはレム睡眠(REM睡眠)のことで「脳を活性化させる睡眠」と考えてください。「夢を見ている睡眠」と言った方がわかりやすいかもしれません。徐波睡眠というのは、レムでない睡眠=ノンレム睡眠すなわち「体を修復する睡眠」の中でも特に深い睡眠のことをさします。我々は、ノンレム睡眠から始まって約90分後にレム睡眠が出現するという睡眠周期を一晩に4~6回繰り返して眠っています。

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すなわち「うつ病」ではまず深い睡眠が出にくくなります。さらにうつ病ではレム睡眠が増加します。すると、レム睡眠を抑えるしくみが働かずレム睡眠が早い時期に出現しやすくなります。この結果中途覚醒(途中の目覚め)が増加し、夢ばかり見るようになるわけです。また、これらは「睡眠相の前進」という現象を引き起こし、朝早くに目が覚めるようになるのです。

 これとは逆に「睡眠相の後退」という現象を起こしているのが「季節性感情障害」です。これは特定の季節、特に冬場になるとうつ病になるもので、先ほど述べたように過眠傾向を示します。また、このほか過食や行動抑制などを起こすのが特徴です。北欧の諸国のように緯度が高い地域ほど発生率が高く、日本では太平洋側よりも日本海側に多いと言われています。このような地域差から、この病気は日照時間や体内リズムと関係していると考えられています。

 当院は「睡眠クリニック」ですのでさまざまな睡眠障害の方が受診されますが、やはり一番多いのは不眠の訴えです。受診者の37%は「眠れない」ことを主訴にみえられます。
さらに言えば全体の50%の患者さんに不眠型の睡眠障害を認めます。この中で、気分障害に伴う睡眠障害(不眠)は、これら不眠症のうちの30%を占めます。加えて10%の方が「適応性睡眠障害」と診断されています。
これは、急性のストレスや環境の変化によってひき起こされた不眠症で、近親者の死亡、離婚、転職や、直接的な恐怖などが引き金になって起こるものです。このコーナーの第一回で中村教授がおっしゃっていたように、ストレスは結婚を申し込まれたといった嬉しいプラスの情動に対してもおこることがあります。
一般的に経過は短くストレッサーが除去されるか適応性が向上するとまた眠れるようになります。この適応性睡眠障害もしばしば「無気力」「不安」「抑うつ的感情反応」などをきたします。
ですから「眠れない人の約半数は何らかのうつが関与している」と言われる先生がおられますが、私も同意見です。もしもあなたが眠れなくなったら「うつ病」の黄色信号と考えてみてください。

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