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こころのメッセージ


こころの病気について1 ~うつ病の自覚症状~

産業医科大学精神医学 吉村 玲児

H16年9月掲載

うつ病とは?

 うつ病は、気分(感情)障害の一つであり、気分をコントロールしている脳内の機能の障害で生じると考えられている。たとえば、うつ病患者の脳内ではセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどのモノアミンや脳由来神経栄養因子(BDNF)といった物質が低下しており、そのことがうつ病の病態と関連しているといった仮説がある。

 うつ病は非常にありふれた病気であり、米国ではうつ病の生涯有病率が女性では約20%にも上るとの報告がある。うつ病の原因は未だ解明されていないが、遺伝的素因と幼少時期の環境要因との関与が想定されている。執着性格あるいはメランコリー親和型性格と呼ばれている、几帳面、責任感が強い、自分は我慢して相手のために無理をしてしまうような性格の人はうつ病になりやすいとも言われている。またうつ病の発症に先立ち、近親者の死、離婚、失業、転勤などのライフイベントが認められることが少なくない。  うつ病との鑑別で重要となるのは身体疾患や薬剤によるうつ状態である。甲状腺機能低下症、クッシング症候群、パーキンソン病、慢性硬膜下血腫、膵臓癌などの身体疾患ではしばしばうつ状態を伴い、またステロイドホルモン、インターフェロン、βブロッカー、H2ブロッカーなどの薬剤はうつ状態を引き起こすことがある。

 うつ病の治療では、質の良い休養をとらせることが大前提であり、抗うつ薬による薬物療法と精神療法が行われるのが一般的である。抗うつ薬では、口渇、便秘、かすみ目などの従来の三環系抗うつ薬で問題となっていた副作用の少ないSSRIやSNRIといった薬物が現在ファーストラインで用いられている。精神療法では軽症うつ病に対しては認知療法が有効である。難治性うつ病に対しては、電気痙攣療法や磁気刺激療法なども行われる。

うつ病の自覚症状

うつ病の自覚症状は(1)気分面、(2)意欲・行動面、(3)思考面、(4)身体面に現れる。

(1)気分面の症状

うつ病の基本症状である抑うつ気分は、<気分が沈む><憂うつである><うっとおしい>などと自覚されることが多い。また、不安や焦燥感を伴うことも多く、<些細なことが理由もなく心配でたまらない><なんとなく恐ろしい気がする><落ち着かずイライラする>などと感じられる。特に高齢者のうつ病では、この不安・焦燥感の非常に強い激越性うつ病のタイプが多い。

(2)意欲・行動面の症状

うつ病による意欲低下のため活動量も減少してくる。このうつ病による精神運動抑制の症状は、<なにもやる気が起きない><億劫である><前は簡単に出来たことも時間がかかる><能率が上がらない>などというように自覚される。

(3)思考面

うつ病では思考過程と思考内容に変化が生じる。すなわち、思考のスピードが低下し滑らかに進まなくなる。またその内容は悲観的、自責的となる。これらの症状のため、<頭が働かない><考えが浮かばない><呆けてしまったようだ><なにも自分で決められない><自分は情けない人間><他人に迷惑ばかりかけている><自分は生きるに値しない><死んで楽になりたい>などと考えるようにもなる。

(4)身体症状

うつ病では睡眠障害、食欲低下、体重減少、全身倦怠感、頭重感、自律神経症状などの身体症状を伴うことが多い。したがって、<眠れない><夜中に何度も目が醒める><ご飯が美味しくない、砂を噛むようだ><いつも身体がだるい><すぐに疲れる><頭が締め付けられる><後ろ頭に石をのせられたよう><冷や汗が出る><手足が冷たい、顔がほてる><口が乾く><便秘する><首から肩にかけてのこりが激しい>などと自覚される。
 これらのうつ病の自覚症状には日内変動があり一日の内でも午前中に強いことが多い。

典型症例

※これは全く架空の症例である。
[症例:Aさん、48歳、男性、会社員]

 3人兄弟の長男、友人も多く、高校時代は生徒会長、大学時代は応援団長を務めていた。元来几帳面で責任感が強い。他人に仕事を任せられないタイプで非常に人望も厚い。半年前に大都市の支店へ栄転となる。
 前任地は田舎で比較的のんびりとした雰囲気であったが、新しい職場では仕事量や部下の数も増えた。毎日朝7時には出勤し、帰りは夜中を過ぎることもしばしばであり、日曜出勤も多かった。3ヶ月前に部下が仕事上で大きなミスをした。その対応に奔走してどうにか無事にことを収めることができたが、その時に自分の能力不足を強く感じた。
 その1週間後ぐらいからなんとなく憂うつで疲れやすくなった。いつも胃が重たい感じがして食欲も落ちた。食べ物の味も以前とは変わった。近くの内科を受診して内視鏡検査を受けたが特に異常はなかった。しかし状態は変わらず、1ヶ月前からは毎日頭が重たく、締め付けられる感じがする。肩こりも強い。朝早く目が覚めるようになった。また新聞の活字も頭に入って来ず、社会面や経済面の記事を読む気も起きない。趣味の油絵も全く描く気がせず、休日は自宅で何もせずに殆ど横になっている状態。
 最近では、仕事での些細なミスが多くなり仕事に対する自信もなっている。仕事中に冷や汗が出て、めまいや震えが起こることもある。妻には「今の仕事を続けることは自分には出来そうもない」と退職をほのめかしている。また「このままこの世から消えてしまえれば楽だろう」との考えが頭をよぎることもある。

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