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こころのメッセージ


性同一性障害について

福岡大学医学部精神医学教室 助教 縄田秀幸

H27年2月掲載

性同一性障害とは?

性同一性障害(GID: Gender Identity Disorder)とは、自分の産まれ持った身体の性と、心の性(自分自身が自分の性をどう感じているか)が一致しない状態のことを指します。1953年にアメリカの内科医によって報告された“性同一性障害”の概念は、その後世界中で認知されるようになりました。近年では性同一性障害を“精神疾患の1つ”として捉えるよりは“性の多様性の一部”として理解しようとする動きが広まっており、アメリカ精神医学会が発表した最新の診断基準の中では“障害”という言葉が外され、性別違和(GD: Gender Dysphoria)という名称に改められました。このサイトでは暫定的に性同一性障害という名称を使用していますが、今後、性別違和という名称の方が一般的になっていくのだと思います。性同一性障害はメンタルヘルスの問題でありながら、社会がそれをどう受けとめていくのか、という問題でもあるのです。

性同一性障害の治療と疫学について

国内においては、“性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン”というものが存在しており、性同一性障害の治療は基本的にこれに沿って行われています。ガイドラインにおける治療の第一ステップは、精神科専門医への受診です。精神科では患者さんの心理的サポートをしつつ、患者さんが“身体の性”を変えていく治療を望んだ際に、それが本当に妥当な判断なのかを一緒に確認していく作業を行います。十分な検討の後に“身体的治療に進んだ方が良い”と判断された場合には、次のステップである“ホルモン補充療法”や“乳房切除術”“性別適合手術”といった身体的治療の段階に移行することが可能です。九州内でこのような治療を提供できる大学病院は、福岡大学病院、長崎大学医学部附属病院、宮崎医科大学医学部附属病院(2014年現在)となっています。この他にも最近では民間の診療所などで性同一性障害の治療を積極的に行っている施設も増えてきているようです。

また“性別適合手術”を経た患者さんは、家庭裁判所に“戸籍上の性別を改める申請”を行うことが出来るようにもなります。裁判所が公表する司法統計では2013年までに国内で4,353人の性同一性障害の方が“戸籍上の性別を改めた”と報告されています。性同一性障害に悩んでいる方は一般に思われているより、ずっと多いのです。

性同一性障害に対する心理的サポートの重要性

身体的治療が進み、戸籍上の性別を変更出来たら性同一性障害の悩みはなくなるのでしょうか?ある人にとってはそうかもしれませんが、そうでない方々も沢山居るようです。これまで私がお会いしてきた性同一性障害の方の中には、外観が望む性になっても子供を作ることが出来ない悩みに苦しめ続けられた方も居ましたし、社会生活を送る上で周囲の無理解から思わぬストレスに曝された方も居ました。

スウェーデンで“性別適合手術”を受けた性同一性障害の方々の予後調査が行われました。平均で11.4年間の予後が調査され、それによると性同一性障害の方の自殺による死亡率は、そうでない方の19.1倍にもなりました。海外で行われた研究で、国内の事情と一致しない点も多々ありますが、性同一性障害に対する心理的サポートが如何に重要かを示すデータです。他のメンタルヘルスの領域と同じく、性同一性障害においても、継続的に相談出来る場所を確保し、孤立しないこと、孤立させないこと、がとても大切です。

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