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こころのメッセージ


若年者の自殺未遂について

福岡大学医学部精神医学教室 衞藤 暢明

H27年7月掲載

ここでは10歳代〜20歳代の若年者を中心に解説します。

1.若者の自殺の特徴

 まずは、10歳代の自殺既遂の特徴を見てみましょう。自殺者数は、他の年代にくらべてきわめて少ないと言えます。(図1) また、10歳代の自殺死亡率は、他の年代くらべてきわめて低いという特徴もあります。(図2) 20歳代でも、他の年代にくらべて少ない自殺者数、低い自殺死亡率という傾向を示しています。

 このため、若年者の自殺は他の年代よりも起こりにくく、ひとたび自殺行動(自殺未遂)が起こった場合には、他の年代よりも深刻に捉える必要があります。事後には、個々の状況に基づいて焦点化した対策を慎重に立てる必要があります。

(図1)年代別自殺者数(2014年警察庁)

 graph01

(図2)年代別自殺死亡率(2014年警察庁)

 graph02

2.若年者の自殺行動の特徴

一般に若年者では、以下のようなことが分かっています。

  •  自殺念慮をもつ割合は多いが、実際に行動にうつることは少ない。
  •  自傷(自殺の意図を伴わない行動)は、将来の自殺既遂のリスクになる。
  •  メディアの影響を非常に受けやすい。
  •  近年では、ネットやSNSの関与する自殺が出現するようになった。
  •  精神疾患が顕在化してくる年代であるが、低年齢であればあるほど診断は難しい。
  •  自殺行動にかかわる精神症状は、他の年代にくらべて必ずしも典型的ではない。

3. 若年者の自殺に関わる精神疾患

自殺企図が起こった場合や自殺の危険が高まっていると判断される場合は、必ず精神科の専門家からの助言や医療機関との連携が必要になります。
若年者の自殺に関わる精神疾患は様々であり、以下のようなものがあげられます。

1)統合失調症
2)うつ病
3)発達障害
4)摂食障害
5)薬物乱用
6)パーソナリティ障害
7)神経症(適応障害、不安障害、解離性傷害)
8)性に関する問題(性同一性障害、性的指向の問題)

(参考)若年者に多い精神疾患と自殺行動の特徴(PDF)

自殺の問題を含めた行動上の問題の背景に、精神疾患が存在することがほとんどです。
また、若年者では通常、精神科を受診したことがない場合が多く、問題が起こって始めて診断に至ることが稀ではありません。治療に際しては、専門家の意見を求める必要があります。

4. 若年者の自殺の危険に関する評価

 若年者の場合に限らず、自殺の危険に関して分かっていること、分かっていないことを明確にして、患者の抱える問題点を整理する必要があります。
 特に押さえておくべき内容として、以下の事柄があります。

  • 自殺企図(未遂)歴・自傷歴
  • 非合法薬物(危険ドラッグを含む)や有機溶剤・ガスなどの乱用や依存
  • 家庭、学校、地域それぞれでの生活状況と、その中での問題
  • 近親者や友人の自殺歴
  • 喪失体験(患者にとって意味をもつ喪失体験)
  • たびたび怪我をする、大量服薬や自傷した後に本来必要な処置を行わない、性的逸脱など、自分の安全や健康を守れない状態。いわゆる「事故傾性」 (accident proneness)。

どのような方針で治療や介入を行うかについて検討する際に、以下のような整理(図3)をした上で、関係する機関との連携を行います。
(図3)

graph03

 精神科への紹介時に、スクリーニング・シート(PDF)を用いると情報共有がスムーズに行なわれるでしょう。

5.若年者の自殺未遂・自傷が起こったときに考えること

 特に中学・高校・大学などで自殺企図や自傷が起こった場合の対応の原則を示します。

1.精神科医との連絡をとる

「自殺未遂」が起こった場合には、できるだけ早く精神科医が診察を行い、自殺の危険に関する評価を行う必要があります。自殺企図が起こった場合、8-9割に精神障害が存在しています。

2.学校での様子に関する情報を治療機関に情報提供し、連絡をする際の窓口を伝える

若年者の場合、周りの大人がそれぞれ持っている情報は断片的であることが多くあります。できるだけ全体の評価ができるよう情報提供をおこなうことで正しい診断や早期の治療が可能になります。

3.自殺企図の状況を目撃した生徒・学生や直前に関わりをもった人に対しての支援の体制を整える

自殺企図の状況を目撃した人がいれば、その人の精神科的サポートが得られるようにします。また直接関わった人が「責められる」ことがありますが、実際に何が起こっていたかは全体的な評価を行わなければ分かりません。そのため、必要な支援を関わった人が受けられる準備が必要です。

4.家族への対応

自殺企図直後に家族が混乱していることも多く見られます。この場合、できるだけ客観的に何が起こったかを判断できる専門家が関与する必要があります。また、家族にも多くの関係者が含まれますが、自殺未遂の事実を伝えることが返って混乱を大きくすることもあります。その人が若年者の患者にとって支援者になると判断されたところで治療に協力してもらうという方針を確認しておくと良いでしょう。

5.復学や回復後の支援に関する相談を行う

多くの自殺未遂者が回復し、日常の生活に戻っていくことから、できるだけ早い段階から復学や回復後の生活に向けた準備を行います。身体的な状態や精神的な状態の回復が十分でない場合は、復学に必要な条件を関係者に対して具体的に提示することも必要になります。

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