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こころのメッセージ


自死遺族の法律相談

弁護士 里本麻衣

H27年2月掲載

第1 はじめに

今回は、「自死にまつわる法律問題」として、二つのことを話題にしたいと思います。一つは、「本人が自死をした後に、その遺族と不動産家主との間に起きる問題」です(賃借中の建物の中で自死をしたことが前提です)。もう一つの話題は、「本人が、借金を残して自死した場合の問題」です。

以上の問題を、法律の観点からお話ししていこうと思います。普段あまり聞き慣れない言葉が多いかもしれません。

第2 自死にまつわる法律問題

1 自死遺族と不動産家主との間に起きる問題

(1)家主から金銭請求を受けてしまった(損害賠償責任)

賃借人が自死をした後、家主がその遺族に対して、損害賠償請求をすることがあります。では、なぜ家主が損害賠償請求を求めるのでしょうか。それは、家主にとって、自分の建物の中で自死という事態がおこってしまうと、そのことを聞いて、その部屋を借りることをためらうことにより、賃借人が見つからず、家主の財産に影響するからです。不動産会社には、その部屋で自死があったことを告知する義務があります。そのため、その部屋で自死があったことを秘密にしておくことはできないのです。部屋を借りようとする人は、その部屋で自死があったことを知れば、借りるのをためらう可能性は高いですよね。

家主のこれらの損害は、自死をした本人が賠償責任を負うのが原則です。でもご本人は亡くなっているので、遺族がその方の賠償責任を相続することになり、結果として自死遺族が家主から損害賠償請求をされることになるのです。

では、自死遺族がご本人の賠償責任を負担しなくてよい方法はあるのでしょうか。

自死遺族が、ご本人の財産について、相続放棄をすれば負担しなくてもいいこともあります。

以上については基本的なケースであり、かなり簡単に紹介したものですので、やはり場合によって異なってきます。

(2)どこまでを賠償すればいいの?(損害賠償の範囲)

では自死遺族は、生じた損害のうち、どの範囲までの損害を賠償すればいいのでしょうか。

自死によって家主に生じうる損害としては、①物件の改修費(例えば、自死があった部屋のクロスの張り替え等)、②失われた家賃(自死があり、次の借主が見つかりにくいことにより、家主が得られなかった家賃)などです。

(3)まとめ

例えば、部屋の扉に不具合がある場合は「物理的欠陥」があるということになりますが、自死があった賃貸借物件は、「心理的欠陥」があると言われます。つまり、その部屋では気分的に快適に過ごせない、ということです。そのために、物件の構造等に問題はなくとも、このような問題が発生してしまうのです。

2 借金を残して自死した場合の問題

(1)事例

夫が借金を残したまま自死してしまった。妻(遺族)はどうしていいやらさっぱりわからない。

(2)妻(遺族)がすべきこと

①相続又は、相続放棄
借金などのマイナスの財産も相続の対象になります。よって、妻(遺族)は夫の借金を支払わなければいけない場合もあります。
一方、あまりに夫の負債が大きければ、いっそ相続放棄をすることも考えられるでしょう。相続放棄をすれば、妻(遺族)は夫が残した借金を支払う必要はありません。しかし、そもそもどのくらいの借金があるのかわからない場合に、相続放棄をしてしまうと、夫が持っていたプラスの財産も相続することができなくなりますので、②以下の事項を把握して、慎重に考える必要があります。

②借金は誰からしているのか?借金の総額は?

  • 夫の郵便物、夫の持ち物、書類関係等の整理
  • 弁護士に依頼し、金融会社に取引履歴を取り寄せる(借金額の把握)

③その他把握すべきこと

  • 遺族が夫の連帯保証人になっている借金はどこに、いくらあるか。
  • 夫の財産はどれだけあるのか?(固定資産評価証明書で不動産の価値を確認するなど。なお、生命保険金は相続財産ではない場合もあるので、注意してください。)

相続放棄は、特別の事情がない限り、死亡したことを知ってから3か月以内に家庭裁判所に言わなければいけません。しかし、以上の作業には案外時間がかかるので、放棄期限に間に合わないことも考えられます。そういう場合は、放棄の期間を延ばしてもらうよう、裁判所に申し出なければなりません。

第3 おわりに

家族の自死は、遺族にとって大変心の痛い出来事です。しかし、自死が周囲に影響を及ぼしてしまうことも現実として存在します。ご遺族にとっては二重の苦しみだと思いますが、どうかご遺族だけで悩むことなく、とにかく相談に来てください。そして、その苦しみから少しでも解放されることを願います。

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